スウェーデンの教育/障害児教育
<保育園
Daghem>ダーグヘムという名称の意味は、「昼間のおうち」となる。つまり、子どもを預かる施設という考えではなく、家庭という考え方であり、保母は母親、保夫は父親として位置づけられている。生後
9ヵ月(育児休暇が9ヵ月のため。実際には6ヵ月の子もいる)〜6歳までの児童を預かる施設。92年まですべて公営だったが、現在は民営の施設もできている。月曜〜金曜の朝6時半〜18時頃までオープンしている。保育園と幼稚園は一本化しており、読み書き、算数は教えないが、季節の変化、自然の大切さ、環境保護、友人関係、遊びの楽しさなどはしっかりと教える。ノーマリゼーションという言葉から、北欧では障害児と健常児が一緒に生活しているとの誤解が生まれたが、障害児は少しの例外を除き、障害児専門の保育園または部屋で生活している。保育園の足りない地域では、ダーグママという家庭の主婦が子どもを預る制度もある。どちらも費用は有料で、親の収入に応じている。<就学前学校>
保育園では勉強はしないので、学校へ入るとついていけない子どもがいる。このため就学前の
6歳児を対象に1日3時間の準備勉強をする教育が実施されている。これを幼稚園教育と呼ぶ人もいるが、教育場所は学校が多い。費用は無料。<基礎学校>
6
〜16歳の9年制。数年前まで7歳就学で、今は6歳でも就学できるという選択制。6歳から入学する子どもも増えている。9年制を1〜3年、4〜6年、7〜9年の3段階に分けて考えていることが多い。7〜9年を中学校として分けている学校もある。8
月中旬からはじまりクリスマス前に終わる秋学期と、1月10日頃から始まり6月初旬に終了する春学期の2学期制。秋と冬に各1週間のスポーツ休暇がある。費用は公営は無料。
1
クラスの定員は28名で、ほとんど20名程度のクラスになっている。1年生は人間関係や集団生活を身につけるのが主体で、数字や文字は絵を使って覚える程度の教育。まず学校に馴れてもらうことが重要で、心の準備ができてから勉強を始める方針が理解できる。授業も、先生が黒板にどんどん書くということはなく、何かのテーマについて生徒の意見を聞き、その意見をいくつも書いていき、子どもの考えを引出しながら色々な考えがあることを教え、考えることを学ばせる。わからない子どもには補助教員がつくこともある。試験は8年目までない。最近はシュタイナー学校、モンテソリー学校などの一部有料の私立学校もできている。また普通の基礎学校の教育もシュタイナー学校やモンテソリー学校からの影響を受けたと見られる部分がある。
<高等学校
Gymnasiet>16
〜19歳の3年制。基礎学校の最後の2年間の成績により、高校進学及び進学コースが決る。一つの高校の中に普通コースと各種職業コースがある。普通コースへ行く子どもは大学進学を希望し、多くの子どもは各種職業コースに進む。職業コースでは、社会に出てからの実務を教え、自動車修理コースでは、卒業までにボルボの修理が完全にできるように教えられる。身体障害児も受け入れる高等学校もある。<大学
Universitet>国立の総合大学は
6校。工学、美術、演劇、音楽などの単科大学は約65校ある。92年の教育改革で私立大学も1校誕生した。高校の成績と試験による選抜で入学が許可され、2〜5年制。医学、建築などは志願者が多く、狭き門になっている。<国民高等学校
Folkhogskola>19
世紀にデンマークの思想家グルントヴィが、18歳以上の成人を対象に大学教育や職業訓練から離れた、人間教育の場としての自由な学校を提唱し、教師と生徒が自由にディスカッションしながら何かを学ぶ学校として育ってきた。やがて北欧諸国にも影響を与え、各国で成人学校が設立され、現在に至っている。各学校はそれぞれ音楽、美術、国際政治、コンピューター、数学、天文などその学校の特徴となるテーマを持っており、学習期間は
4週間から24週間と各種ある。学校は寄宿舎を持っており、そこに宿泊して学ぶのがふつう。授業料・寄宿料とも有料だが、国からの補助があるのでたいへん安く学ぶことができる。この学校は、「リターンマッチのできる国」として重要な教育期間になっている。高校の職業コースで造船技術を学んだ人は、いまは造船業がほとんどなくなり、別の技術を学ぶ必要がある。そういう人の再教育の場になっている。
<障害児教育>
基本的に統合教育は少ない。知的障害児は別の特殊学校で授業を受ける。統合教育の学校も基本的には身体障害児を対象にしており、授業は特殊学級、校庭や食堂などの共通の場でともに生活している。また、その子どもの障害の程度にあわあせた教育も行われており、健常な児童と一緒の授業が可能な場合には、個人ヘルパーをつけて授業を受けている。高校になると身体障害児のみ受け入れる特定の高校がある。また、障害者専門の成人教育施設(国民高等学校)もあり、ここで補充教育を受けてから大学へ進学する例もある。
<サムハル
Samhall>全職員約
35,000人のうち約30,000人の障害者を雇用する国営企業。障害者乃「労働力をどう有効に利用するか、という視点から労働省の管轄下で設立運営されている。IKEAの下請けなどの製造業部門もあるが、健常者との競争が厳しくなっているので、サービスハウス内のレストラン、町のカフェ、犬預りセンターなどのサービス業に力を入れている。<障害者グループホーム>
同じ程度の障害者を数人ずつ一つの家に居住させるもので、家庭に近い環境で住むことができるようにしている。介護者が同じ家または隣接する家に住み、
24時間介護が保証されている。<介護判定員>
コミューンの高齢者障害者課の中に
4人程度の判定員(査定員。公募され、面接の上で選抜されて指名される)がおり、高齢者障害者にどの程度の介護を提供するか査定する。また、施設に居住する人、ヘルパー介護を受けている人から苦情を聞いたり、民間委託になった施設の住人からアンケートをとったり、施設の介護の質を査定したりもし、民間委託しても質を維持するようにしている。<エーデル・リフォルメ
Ader Reformen>92
年1月1日より、福祉と医療の連携を深めるため、これまで県の管轄だった老人医療も、福祉と同様にコミューンが管轄することにした医療福祉改革。この改革により、これまで県の管轄だった長期療養病院が、コミューン管轄のナーシングホームへと移管された。老人介護を医療から福祉の管轄へ移すことにより費用の削減を可能にする一方、県からより小さな単位であるコミューンへ管轄を移すことにより、キメ細かな介護を可能にしようとするもの。94年1月1日からは障害者法の改革が行われ、介護者選択の自由が与えられた。95年1月からは精神病院が解体され、精神障害者もコミューンの管轄になった。デンマークの教育/障害児教育
<保育
Borunehave>コムーネにより異なるが、ふつう生後
6ヵ月から3歳までがひと区切りで、乳児院や保育ママなどによって、この年齢の子どもの55%がケアされている。保育園に入所できるのは3歳から6歳までで、現在はこの年齢の子どもの約70%が保育園で保育されている。保育所の収容可能人数はすべての子どもの数をカバーしていないので、保育所に入れない子どもは、保育ママ、民間保育、親や祖母たちの共同保育、職場の保育所などがカバーしている。保育料の親の負担は経費の30%で、1ヵ月2〜3万円前後になる。就学年齢は
6歳になったが、6歳で就学しない子どもも午前中は基礎学校入学のためのプレスクール授業を受けるため、他の子どもたちとは別カリキュラムになる。<基礎学校(初等及び中等教育、義務教育)Folkeskoler>
6
歳から9年間の義務教育があり、児童の90%がコムーネ立の基礎学校に通っている。残りの10%はシュタイナー学校などの私立学校に通っている。基礎学校は無料、私立学校は、有料。学期は8月1日に始まり、6月10日前後に終了する。1クラスの児童数は最高28名出、平均は21名前後。通信簿と採点は8年生から採用。国語、算数、英語、ドイツ語、物理に限り希望者に試験が行われる。上級の学校に進学するにはこの試験を受けなければならない。学校運営は学校理事会が行う。理事会はコムーネ議員、父兄代表、生徒代表、校長から構成されている。生徒代表も人事以外のことは発言権がある。
コムーネの中の数校だけが特殊学級をもっており、生徒は遠くから通っているケースもある。普通学校の中に特殊学級があり、授業は別、食堂や校庭は一緒になっている。教員のほかに理学療法士、作業療法士、心理療法士、言語療法士などが協同で教育している。
普通学校とは別に、
5〜16歳の知的障害児・身体障害児を教育している特殊学校もある。<知的障害者センター>
18
歳以上の障害者のグループホーム、デイケアセンター、アクティヴィティセンターなどが一つになった施設。グループホームは個室で、1棟に数人ずつ生活している。アクティビティセンターは料理やスポーツ、ダンス、歌などを楽しむところ。<知的・障害者就労センター>
18
歳以上で、仕事をしたいと望む障害者のための仕事の場。仕事の種類はセンターによって異なるが、陶芸、刺しゅう製品、木工製品など。県営の施設だが、ある程度は独立採算制であり、職員が販路探しに懸命になっている。勤務時間は8〜16時だが、早引きは自由。給料は自給制。<学童保育
Fritidsordninger>コペンハーゲン以外のコムーネの学校には、学校併設の学童保育所があり、学校に籍をおく児童と
5,6歳児童の保育を行っている。コペンハーゲンは保育労働組合が、朝から夕方まで同じ場所で生活するのは子どものためによくないと主張し、学校とは別に地域の学童保育所があり、学校併設の学童保育所は1ヵ所もない。学童保育所を利用しているのは、児童の約40%。保育料は有料で、必要経費の30%を親が負担し、残りをコムーネが負担する。<高等学校(上級中等教育)Gymnasier>
16
歳からの3年間が高等学校に相当する。コムーネ立高校の授業料は無料で、交通費も支給される。高等教育機関への進学資格である上級中等教育卒業試験をパスするための教育課程にあたる。基礎学校卒業生の25%が高等学校に進学する。授業は数学系と語学系の2系統に分けられ、8分野ある。<職業専門学校
Kurser>基礎学校を卒業した人の
75%近くがこの学校へと進学する。普通は3年で、さらに1〜2年の上級に進場合もある。1年目の基礎過程で、商業、金属工業、土木、食品、印刷、サービス業、農業、運輸などについて学ぶ。このあと生徒は自分の専門分野を決め、学習と実習を繰り返しながら、専門の職人への道を進む。<大学>
デンマークには
5つの総合大学があり、そのほかに工学、医学、薬学、歯科技術、獣医学、建築などの高等教育機関がある。入学資格は、上級中等教育卒業試験の成績による。大学は最低6年間は学び、マスターの資格を得る。<国民高等学校
Folkhojskoler>スウェーデンの国民高等学校の項を参照してください。
<成人学校>
成人学校は各種あり、なんらかの理由で中学校卒業資格を取得できなかった人や高校入学試験の受験資格を得られなかった人にその資格を取得させたり、自分が学んだものと違う職業につきたい人のために職業教育をしたりする。若い人の失業率または未就労率が高く、失業保険や生活保護金を受けているだけの生活では、人生に絶望してしまう人もいるので、そういう人の精神の苦悩を救済するための成人学校もある。
<フリースクール
Friskole>デンマークにはフリースクール法という法律があり、初年度最低
12人の生徒と教師1人で自分たちで学校を作ることができる。2年目は28名の生徒がいれば国から補助金もでる。このため各地に多くのフリースクールがある。シュタイナー学校も国民高等学校もフリースクール法の中で設立され、維持されている。<シュタイナー学校
Rudolf Steiner Skolen>オーストリア生まれのルドルフ・シュタイナーが提唱した教育法で教育している学校。もともとは
8年制の教育で、ドイツやデンマークなどの多くの国の教育年限と合わない。例えば、あるシュタイナー学校は基礎学校部分8年(公立は9年)に加えて、4年の高校(公立は3年)を併設し、合計で12年として、公立学校の教育年限とあわせている。シュタイナー教育では、植物から作った自然色のクレヨンや絵の具を使って、絵を描きながら数字やアルファベットを学び、さらにオイシュトミーと呼ばれるカーブする線を動きに採り入れたダンスなど、身体やリズムを使って覚えることに重点をおいている。こうした教育方針は、最近デンマークの公立学校の教育にも採り入れられている。スウェーデンの高齢者ケア
<高齢者ケアの基本
3原則>
<社会サービス法第
6条>ミ援護を受ける権利ミ
「個人はその求めるものが他の方法をもってしても充たされない場合は、自己の生活維持及び生活上の諸問題に関して、社会委員会の援護を受ける権利を有する。個人は前項の援護によって、適正な生活水準を保障されなければならない。前項の援護は、当該個人の資力を強化して自立的な生活を営むように形成されなければならない。」
<スウェーデンの病院>
全国に
6ヵ所の大学医学部があり、それぞれ管区病院がある。この下に人口30万人につき1ヵ所のランスティング(県立)総合病院があり、さらにその下に各コミューンに県立病院管轄の小病院、さらに各地区に地域診療所があり、診療と訪問看護、妊婦指導を行っている。その他、精神専門病院もあったが、95年1月1日からの精神障害者法の改定により解体され、精神障害者専門の外来病院に変わっている。<地域診療所
Vardcentralen>地域住民の医療サービスを提供する施設で、都市部では人口
50,000人に1ヵ所設置され、2,000〜3,000人に1人の医師がいる。診療所の大きさによって人員配置は異なるが、医師、看護婦、准看護婦、訪問看護婦、作業療法士、理学療法士によって構成されている。女性が妊娠すると地域診療所で診察を受け、妊娠中の指導を受け、病院で出産し、地域診療所で乳幼児検査を受けていく。障害児は早期発見、早期治療が重要で、看護婦はそのための教育を受けている。受診の住民は、痛み、感染症、神経症、糖尿病、高血圧、肥満の人が多い。<在宅訪問医療>
シュークヘムまたは地区診療所に所属する在宅医療巡回訪問グループが、あらかじめ登録されている患者の自宅(シュークヘムや老人ホームを含む)を訪問して療養指導、治療を行う。訪問看護婦は人口
5,000人に2人の割合で配置されている。グループは通常は訪問看護婦、准看護婦、及び理学療法士で構成され、必要な場合に医師及び作業療法士が同行する。なお、スウェーデンでは、
94年1月から家庭医制度が導入されたが、不要と思う人は家庭医を選択しなくてもいい。また、少し余分の費用を払えば指定された家庭医以外の医師を家庭医として登録することもできる。但し、家庭医制度は94年5月の国会で廃止が決定したが、当面は現在の形を続けている。<在宅ケア>
高齢者や障害者に、本人が望む限り自宅(サービスハウスや老人ホームを含む場合もある)での生活を続けさせるために、様々な援助を与えるサービス。たとえば、朝に目覚めさせ、ベッドから起こし、排泄、洗浄、着替え、朝食の準備と食事の補助、ティータイムの用意までの手助け、昼食の介助、買い物の同行や代行、週に数時間の部屋掃除、夕食の準備といった援助を必要度に応じて提供する。在宅ケアのためのホームヘルプサービスは有料で、料金はコミューンによって異なる。
<夜間パトロール>
県が管轄する医療パトロール(
2人1組)と、コミューンが管轄する介護パトロール(2人1組)の2種があり、別々に分かれてパトロールするコミューンがある。医療サービスは治療、投薬、注射など。介護サービスは就寝介助、おむつ交換、痴呆性老人の所在確認、カテーテル交換など。<シュークヘム
Sjukhem>かつては長期慢性疾患患者を治療する病院だったところで、
92年から福祉の一部としてコミューンの管轄下に入り、疾患や障害をもつ人々が入居し、その人々を介護する医師はいないが、医療機関を近くに建てるか、または医師の巡回が定期的に行われている。施設長や階長が看護婦で、職員も看護婦と准看護婦主体に雇用されている。居室は1人から4人(古い施設のみ)ほどの相部屋で、キッチンやトイレ、シャワーなどは共用部分にある。英語ではナーシングホームと訳されることが多い。日本では特別養護老人ホームと訳されることもある。<老人ホーム
Alderdomshem>身体に機能障害がある老人、加齢のために在宅生活ができない老人などが居住している施設(住宅)。かつては相部屋がふつうだったが、改革が進み、現在では
90%以上が1人部屋になり、トイレ・シャワーも室内に設置されるようになり、サービスハウスと変わらない設備になっている。ただ、キッチンはないところが多い。掃除、話し相手、シャワー介助、おむつ交換などの介護がある。規模の大きい所には外部の人も利用できる食堂、ホビールーム、フットケア、美容室などもある。90年代に入って、サービスハウスに代る施設として建設されている。<サービスハウス
Servichhus>介護付きの老人障害者用アパートで、食堂、リハビリ施設、フットケア(足のタコ取り)、ヘルパーの介護、洗濯サービス、ホビールームなどがある。居室はトイレ・シャワー・キッチン付きの賃貸または権利を買う方式。
1人部屋が多く、希望者には2人部屋がある。シュークヘムよりは自立的色彩が濃いが、国は80歳以上の高齢者の増加に対応するため、在宅ケア、痴呆性老人ケアを優先的に考えサービスハウス建設は88年からほとんどなくなっている。既存のサービスハウスも、一部をナーシングホームや痴呆性老人グループホームへと改築しているところが増えている。<痴呆性老人グループホーム>
障害者の居住生活施設としてスタートし、それを痴呆性老人の居住生活の場に応用したもの。前頭葉に異常がなく、似た性格の人たちで
5〜8人程度のグループを組み、住民と同数程度のヘルパーが家族的な介護をしている。数年前から設置が始まり、92年7月から国として設置を推進している。当初は郊外の一戸建てが主流だったが、介護のマンパワーや情報収集の効率を図るため、シュークヘムやサービスハウスの中に作る例が増えている。前頭葉に異常があり、攻撃的な老人専用のグループホームもできている。このグループホームでのケアは、居住者の心を安心させるように配慮され、食事やクッキーを焼く匂いを絶やさない、調理に老人たちも参加してもらう、老人たちが子どもだった時代の家具や写真、絵、玩具、人形を飾るなどの配慮をしている。
<デイケアセンター>
サービスハウスの中、または独立してデイケアセンターがある。ここでは在宅の人が、食事、リハビリ、ホビー、読書、フットケアなどのサービスを受けることができる。痴呆性老人専門のグループ・デイケアセンターもある。
<高齢者障害者補助器具センター>
各地の病院などに各種の補助器具を集めた展示場があり、希望者はアポイントを取って訪問する。理学療法士などがその人にあう器具を選び、さらにピッタリあうように改修してくれる。器具は申請すれば、無料で支給される。
<介護判定員>
コミューンの高齢者障害者課の中に
4人程度の判定員(査定員。公募され、面接の上で選抜されて指名される)がおり、高齢者障害者にどの程度の介護を提供するか査定する。また、施設に居住する人、ヘルパー介護を受けている人から苦情を聞いたり、民間委託になった施設の住人からアンケートをとったり、施設の介護の質を査定したりもし、民間委託しても質を維持するようにしている。<エーデル・リフォルメ
Ader Reformen>92
年1月1日より、福祉と医療の連携を深めるため、これまで県の管轄だった老人医療も、福祉と同様にコミューンが管轄することにした医療福祉改革。この改革によりこれまで県の管轄だった長期療養病院が、コミューン管轄のナーシングホームへと移管された。老人介護を医療から福祉の管轄へ移すことにより費用の削減を可能にする一方、県からより小さな単位であるコミューンへ管轄を移すことにより、キメ細かな介護を可能にしようとするもの。94年1月1日からは障害者法の改革が行われ、介護者選択の自由が与えられた。95年1月からは精神病院が解体され、精神障害者もコミューンの管轄になった。デンマークの高齢者ケア
<高齢者ケアの基本
3原則>
<デンマークの医療施設>
デンマークには王立病院(国立で厚生省管轄)が
1ヵ所、県立病院が12ヵ所、市立病院が2ヵ所(コペンハーゲンとフレデリクスベア)あり、さらに各県に県立病院管轄の小さい病院がある。病院は救急を除き、家庭医あるいは専門医の紹介を受けないと診察してもらえない。コペンハーゲン市内や各県の小病院は、専門病院化する傾向があり、重複病患者や交通事故で重複する怪我をした患者の治療に支障をきたすことがある。<生活支援法第
1条>「所轄の公的当局は本法の定めるところにより、本国内に居住している人、及びその家族に対し、勧告、経済的実際的援助、経済的自立能力の発展や回復あるいは介護、特殊治療、教育的援助の必要ある場合、これらの対する援助を行う義務を有する。」
<在宅ケア>
可能な限り在宅ケアを希望する老人が多く、国やコムーネ(地方自治体)はこの希望にそうように努力している。在宅ケアはコムーネが雇用するホームヘルパーと訪問看護婦によって行われる。ホームヘルパーは排泄介助、シャワー介助、食事の準備、あと片付け、掃除、洗濯、買い物などを行う。訪問看護婦は注射、服役管理、カテーテル交換、皮膚病や怪我の手当、栄養指導、補助器具申請、ホームヘルプ査定などを行う。最近は、在宅ケアのヘルパーと高齢者センターのヘルパーを兼ねる方向をとるコムーネも多い。
<家庭医制度>
デンマークの医療保険は
2種あり、人口の96%が家庭医に登録する1種、残りの4%が家庭医も含めて専門医を自由に選べる2種に入っている。1種では医療費全額無料・医薬品費1部負担、2種では医療費の公的な補助はほとんどなく民間医療保険でほとんどカバーする。老人ホームの老人たちもそれぞれの家庭医をもっており、必要があれば家庭医は老人ホームへも往診にくる。<補助器具センター>
全国
12県と2特別コムーネに各1ヵ所の補助器具センターがあり、各コムーネに小規模の補助器具センター兼倉庫兼作業所がある。必要になった人はヘルパーや理学療法士などを通じてコムーネの器具センター訪問のアポイントをとり、センター職員の立ち会いのもとで自分の要求に合う器具をさがす。センター職員は使用する住宅や施設を訪問し、選んだ器具がフィットするか調査し、細部はその人の障害に合わせて修正したり、住宅改造の計画などをたてる。この器具修正や住宅改造制度がデンマークの補助器具貸与制度の優れている点。器具は年間200クローナ以上のものは無料で貸してくれる。電動車椅子、リフト、電動キッチンなどの大きな器具は、県立または特別コムーネ立の補助器具センターへコムーネの職員とともに行って選択する。
<デイセンター
Dagcenter>在宅の高齢者が、食事、リハビリ、ホビーなどのサービスを受ける施設。来訪にはタクシーサービスもある。また、周辺の住宅への配食サービスの基地、ホームヘルパーの拠点になっているところもある。
<プライェイェム
Plejehjem>プライェイェム
という言葉の意味は介護ホームだが、身体に障害のある人だけでなく病気の人もいる。24時間体制の施設で、1人部屋が多くなったが、部屋に郵便受けやキッチンがついていないところが多い。古い形のナーシングホームで、現在では建造を中止しているが、既存のものは個室化、リハビリ施設の拡充、デイケア部門の設置、痴呆性老人部門の設置などの改良工事が行われて使用されている。<高齢者センター
Aldrecentret>病気や加齢、障害などの理由で、在宅ケアができなくなった老人たちが入る老人集合住宅で、コムーネが建造し、運営している。居室が独立したアパートのようになっていて、バスルームとキッチンつきが普通。ヘルパー介護のほか、食堂、リハビリ室、ホビールーム、売店などのサービス施設もある。また、ホームヘルパーの拠点、訪問看護の拠点、配食サービスの拠点、デイケアセンターというように、在宅ケアを支える施設も併設している。また、センターの周囲に高齢者住宅を設置する形も一般的。
<デイセンター
Dagcenter>在宅の高齢者が、食事、リハビリ、ホビーなどのサービスを受ける施設。来訪にはタクシーサービスがある。また、周辺の住宅への配食サービスの基地、ホームヘルパーの拠点になっているところもある。
<高齢者を取り巻く環境の変化>
かつての家族は多子で
3世代同居し、子どもの世話は家族だった。現在は少子または再婚による多子家族になり、全女性(子どもも含む)の72%が働いているので、子どもの世話は社会や施設の役割になった。現在の平均初産年齢は28歳から30歳の間で、子どもの数は1〜2人というのが平均。同様に老人のケアも昔は家族の役割だった。現在は核家族になり、同居家族は全体の
5%以下にすぎない。老人は孤立し、社会がケアする形になった。都市化により、若者は都会に出、村には老人だけが残り、老人の生活を支えていた個人商店などもなくなり、地域社会のネットワークがなくなった。例として現在、あるコムーンには5つの老人ホームがある。うち4つは古い形のプライエム(ナーシングホーム)、1つは新しい形の老人センター。現在の老人の多くは、かつて肉体労働をしていた人で、その健康状態はよくない。特に、喫煙者、飲酒者、油ものを多くとる人の健康が悪化している。いまの老人の多くは国民年金(基礎額毎年
45,000kr、住宅手当て毎月2,200kr)しか収入がない人が多い。現在の就労者は国民年金のほかに、職場での積立年金を支給される。これは公務員は義務化されており、民間企業も採り入れてきた。さらに個人年金をかけている人には税金が控除される。そのほかに各種の貯蓄方法ができている。こうしたことから、国民年金だけ支給される老人と積立年金や個人年金が支給される老人の間に貧富の差が生まれてきている。以前の老人はすべてサービスを「ありがたい」と受けた。権力を認め、行政の意見に素直だった。
1968年の学生運動・女性開放運動世代の老人になると、反権力的になり、多くの要求をだすことだろう。現在、コムーンの老人活動は各種あり、コムーンも補助金を出している。しかし、これからの老人はそれだけでは満足せず、自分のいまの趣味を老後も守ろうとするだろう。いいアイディアも提供してくれるだろう。デンマークでは、第二次世界大戦勃発の原因が、貧富の差が大きかったから、という反省があり、戦後平等意識が芽生え、福祉社会をつくろうという動きが出て、いまの社会になった。